汝、無知なることを知れ

 「無知の知」──ギリシャ時代の哲学者、ソクラテスの言葉です。
 無知を知る。一体どういうことだろう、と首を傾げる方もいるかもしれません。
 ソクラテスの弟子のひとりが、デルフォイの巫女からこんなお告げを受けました。
「ソクラテス以上の賢者はいない」
 それを聞いたソクラテスは、自分は決して賢くないと思っていたが故に大層驚いたそうです。そして、「何故、そのような神託が降りたのか」と自問自答を繰り返し、結果、自分は周囲の賢者達に比べて「(自分が)無知であることを知っている」という意味において賢い──という結論に達したのです。

 私はこの言葉が、今の時代でも充分通じる──いえ、むしろ「表面ばかりの知識がもてはやされる時代だからこそ、とても必要な言葉」のように感じています。
 本来、私たち人間は「深遠な真理や智慧に到達していないのだ」ということを、もっと自覚すべきだと思います。それが自覚出来ず、「人間が地球上で最も賢い生命体だ」という傲慢さから、多くの生物達を絶滅に追い込み、大地を枯らせ、有害なものをまき散らしてしまったのだということに気がつくべきなのでしょう。

 それは、人類という大きな括りからスタートするだけでなく、私たち個々人においても、求められる姿勢だと思います。
 「一を聞いて十を知る」という言葉がありますが、私はこの言葉を褒め言葉だと思ったことはありませんでした。
 子供時代、私は妙に要領のいい子供で、何かひとつのことを始めると何でも器用にこなすことが出来ていました。そのたびに「お前は一を聞いて十を知る子だね」と言われましたが、子供時代の私にとってそれはかえって屈辱的な言葉に聞こえたものです。

 「一を聞いて十を知る」。
 この言葉の真の意味は「何も知らないくせに、知ったかぶりをしているだけ」ということだと、そう思っていたからです。

 この思いは、今でもあります。
 私は「スマートに何でもこなす」というのが、好きではありません。物質社会であればそういった姿勢は「クール」と言って求められるでしょうが、霊的な体験として「スマートにこなせてしまったもの」というのは、内面に何も残さないからです。

 「自分は知っている」
 「自分は出来ている」
 そう思ってしまった途端、その人の成長は止まります。
 生きながらにして神になれるのであれば、最初からこの次元に誕生することはありません。日常の中で「何故、誰にでも出来る当たり前のことが自分は出来ないのか」「何故、自分は周りのみんなと同じように出来ないのか」そんなふうに悩み苦しんでいる人達と共にいることの方が、私は好きです。彼らが魂に刻みつけている歩みはとても深く、時としてものすごくまぶしい輝きを放つこともあるからです。

 スピリチュアリストの中には、「教師」という立場に立ったり、何かを教えたがったり、指導したがる人が多いように感じます。
 しかし私は、最高の教師は、生徒と同じ立ち位置に立てる人だと思っています。
 仰がれる立場にいるのではなく、時として目下に見られるようなことがあったとしても、大きな気づきを周囲に与えられる人。
 上から目線で教えるのが教師ではない──どのような方法であったとしても「相手に気づき」を与えることが大切な目的なのだと、そう思います。
 私は、「ソクラテスとは、そういう人だったのではないか」と思っています。

 ちなみに──。
 ソクラテスは賢者とされる人にはかなり嫌われていて、結局毒殺されてしまいます。
 何故嫌われたかと言えば、賢者としてふんぞり返っている彼らに対し議論を吹っかけ、「相手の知ったかぶり」を知らしめてしまったからです。
 本当に賢い人であれば、ソクラテスのそのような行為にむしろ感謝し、喜ぶはずです。智慧や真理を心から求める者は、いつでも「気づき」を求めています。批判や評価なんて気にしないどころか、自分に対する見栄もプライドもないので、「自分は何も知らないんだ」ということに気づけること、それそのものに喜びを感じるはずなのです。
 そう感じた人が誰もいなかったのだとしたら、確かにソクラテスほどの賢者が当時はいなかった──ということになるのかもしれません。

 スピリチュアリストの中には、自分の霊性を高く評価し、周囲の人の「波動が低い」といったことを言う人もいます。
 また、日常の些末な出来事に対して「面倒くさい意味のないもの」と見て、自分はもっと意味のあることをすべきだと感じている人もいます。
 しかし、日常の出来事や目の前の現実を否定しか出来ない状態では、どんな素晴らしいものごとが訪れてもその素晴らしさを理解することは出来ないでしょう。
 「つまらない」と思っているのは自分の評価でしかなく、本来は「どんな些細な出来事でも、見方ひとつで素晴らしいものに見えるはずだから」です。それが出来ない状態では、どんなに驚くような奇跡が起きても喜べるのは一瞬で、すぐに何もかもが色褪せてしまうでしょう。
 状況や環境が霊性を育てるのではなく、どんな状況、環境にいたところで霊性を如何に育てるかは「自分次第だから」です。

 こんな例があります。
 私が東京で仕事をしていた頃、遠距離通勤中に子供連れが乗ってきました。両親に連れられた5歳ぐらいの男の子は、一両目の先頭車両(ガラス張りで運転手席が見えるところ)に乗るのは初めてだったようで、乗ってきた時からかなりのハイテンションでした。
 しかし、私を始めとするその車両に乗っている通勤者にしてみれば、電車は「ただの乗り物」です。会社に行く為のツールでしかない。ましてや運転手が見えたからといって、鉄道会社の従業員ぐらいにしか思いません。
 しかし男の子は、運転手の後ろ姿に歓声を上げます。まるでハリウッド映画のスターが突然現れたかのように。
 男の子はとても興奮していて、終始はしゃいでいました。
「すごいねぇすごいねぇ! 新幹線みたいだねぇ!」
 電車はありきたりの普通列車です。有料の特急でもありません。
 しかし、その子にとっては新幹線と同じぐらい、すごいものに感じたのでしょう。
 私達おとなにとっては「当たり前」のことでも、その子にとっては「ワンダーランド」に見えたのかもしれません。

 私は、この男の子の純真さに、とても心を打たれました。
 思えば私も、昔は電車に乗るのが大好きでした。大人しい子供だったので騒ぎはしなかったものの、すべてにワクワクしながら見ていたのを覚えています。
 一体いつから、電車の光景に何も感じなくなったのだろう──。

 私が見ていた光景と、男の子が見ていた光景は「まったく一緒」なのです。
 でも、その子にとってその光景がワンダーランドに見えたのは、一体何故なのでしょうか?
 その子は電車の光景を「知らない」──初めて観るものだったからです。彼の瞳はまさしく、「電車の光景、すべてを知りたい」とする好奇心に満ちたものでした。
 一方、私は電車の光景を「知ったつもり」になってしまっていたから、何を見ても「当たり前」としか感じられなかったのです。

 人生も同じです。
 「知ったつもり」「出来たつもり」になってしまえば、何も面白いものはありません。そこがゴールになってしまいます。
 「自分は知らない」「自分は出来ていない」──自己卑下や過小評価ではなく、素直にありのまま「自分の無知を受け入れる」ことで、魂に築き上げていく体験も、そして人生に対する感じ方そのものも、大きく変わってくるのだろう──私はそんなふうに思っています。
 

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2011-12-05 | 真理 | トラックバック(0) |
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プロフィール

篠崎由羅(しのざきゆら)

Author:篠崎由羅(しのざきゆら)
1970年生。幼少期から哲学・宗教学に造詣を深める。思想および思想史、それに付随した国際事情に興味を抱いて独学を続け、大学ではインド哲学科専攻。東西問わず、両者の思想に渡り研究を深める。

現在は看護師として施設で勤務しながら、その傍らで執筆活動を続けている。2016年11月にYOU are EARTH改め「WE are EARTH」の活動を再始動予定。より良い未来の地球のため、全力を尽くす誓いをたてている。

【篠崎編集担当】


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